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福岡高等裁判所 昭和53年(行コ)4号 判決 1978年9月20日

控訴人(原告) 古田忠一 外二七名

被控訴人(被告) 大分県知事

主文

一  本件控訴は、いずれもこれを棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、「一、原判決を取消す。二、被控訴人が昭和四九年一二月二六日付でなした請求人長谷川一夫の請求に係る相手方中津市漁業協同組合の臨時総会決議の取消請求を棄却する、との決定を取消す。三、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、左に付加する外は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  控訴人ら

(一)  水産業協同組合法一二五条一項の適用については、取消請求に対する同意の撤回は左の理由により許されないと解すべきである。即ち、

1  撤回の自由を無制限に認めることは、取消請求人はもとより取消請求を受けた行政庁及び取消請求訴訟が係属した裁判所さえ同意者の数を正確に把握しえないという事態の発生につながるものであつて、このような事態の発生は法的安定性を著しく損なうもので、許されるべきではない。

2  同法一二五条は、取消請求についての同意者の必要限度数を規定したものであり、同意の撤回の場合まで予定していないことは、その文理上明らかである。

3  地方自治法上の直接請求における署名の取消との対比についていえば、成程、地方自治法施行令九五条は署名の取消を認めているが、同時にその時期、方法について明確な規定を設け、法的安定に支障を来さない配慮を示しているのに対し、水産業協同組合法一二五条は、同意の撤回の時期、方法について、なんらの合理的限定を付しておらず、無限定の同意の撤回は著しく法的安定性を害するおそれがあるのであつて、このことは、即ち、同法条の同意はその撤回が許されないことを意味する、と解釈されなければならない。

4  同意の撤回の自由が認められるべきでないことは、同意の追加の自由が認められるべきでないことと同様である。

5  水産業協同組合法一二五条は一〇分の一以上の同意に基く取消請求がなされた場合は、組合運営の「違法な安定」より、法適合性が優越することを規定したものであり、法適合性と「違法な安定」のいずれが優先するかの分岐点として、一ヶ月以内に一〇分の一以上の同意に基く取消請求があるか否かという要件を規定したのである。そして右規定上、一ヶ月以内に全ての同意者を確定することまで要求されていないのであるから、一ヶ月以内に一〇分の一の同意がなければならないかわりに、これがあれば足りるとしているのが右規程の趣旨と解されるのであり、これによつて組合運営の「違法な安定」の利益は法適合性に道を譲らなければならなくなるのである。従つて一旦右の要件が満たされた本件では、組合運営の「違法な安定」の利益はもはや法的保護に値しないといわなければならない。

6  同意の撤回の自由を容認することは、相手方たる行政庁自体が予想しなかつた要件を新たに設定するに等しく、漁民たる組合員はもとより、本案について裁決をする農林大臣の予期に反する不当な措置である。

7  同意の撤回の自由を容認することは、取消請求後において、同意者に対する切り崩し工作を奨励するに等しく、その結果の弊害は甚大である。

(二)  右(一)の1ないし7の理由により同意の撤回は許されないが、仮に水産業協同組合法一二五条一項の適用上、同意の撤回が自由に許されるとしても、地方自治法九五条の趣旨等に鑑み、撤回の許される時期は、取消請求書の提出又は同意の追加の余地ある決議後一ヶ月以内に限定されると解すべきところ、本件の同意の撤回は全て一ヶ月以後のものであるから、その撤回は許されないもの、といわなければならない。

二  被控訴人

1  同意の撤回の時期及び方法について、水産業協同組合法上明文の規定がないからといつて、撤回の自由を認めることが法的安定性を害することとなるいわれはない。けだし、前者について、総組合員の一〇分の一以上の同意者の存在が抗告訴訟における訴訟要件であると解釈される以上、その存否の判断が口頭弁論終結時であることは多言を要しないところであるし、後者についても、同意の方法についてさえ明文の規定はないに拘らず、書面をもつてなされている現状に照らし、これが書面による方法をもつてなされるべきことは、理の当然である、というべきであるからである。

2  地方自治法施行令九五条との対比について、同法条が署名の取消の時期と方法を規定した趣旨は、選挙管理委員会の署名簿の署名の審査に関して混乱を生ぜしめないためであるから、時期と方法について特段の定めがなくても混乱を招来するおそれがない本件同意の撤回の場合はこれと趣きを異にし、時期と方法の定めがないからといつて、直ちに水産業協同組合法が同意の撤回を認めていないと解釈することはできない。

理由

当裁判所も、水産業協同組合法一二五条が規定する総組合員の一〇分の一以上の同意者の存在は行政庁のした決定の取消を求める抗告訴訟の訴訟要件であると解釈するものであり、控訴人らの本件訴は右の訴訟要件を欠く不適法な訴として却下を免れないもの、と判断するが、その理由は、左に付加する外は、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決一一枚目裏末行目の「訴を取下げ」の次に「、更に二二名が控訴人らの訴を却下した原審判決に対し、控訴を提起しなかつ」を加え、同一二枚目表一行目の「本訴原告ら五〇名」を「本訴控訴人ら二八名」に、同二行目の「合計五五名」を「合計三三名」にそれぞれ改め、同三行目の「がない」の次に「か、本件記録上明らかである」を加える)。

控訴人らは、水産業協同組合法一二五条一項の適用に関し、取消請求に対する同意の撤回が許されないか、許されても時期的な制限がある旨主張し、その拠つて来る所以を縷々強調するのであるが、右の主張は、所詮、控訴人ら独自の見解に基づくものにすぎないものであつて、いずれも採用に価するものではない。

よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民訴法第九五条、第九三条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高石博良 鍋山健 原田和徳)

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